『エー・アンド・デイ AD–5634』開封│レビュー
工作や修理に必要な工作室の道具を紹介する第三十五回め。
今回は『デジタル放射温度計 AD-5634』。
前回(HIOKI FT3701)と同じグリップ型の”赤外線放射の温度計”だが、こちらは距離対範囲(D:S)がちょっと高精度なモデル。
AD-5634 特徴
1 特徴
- D:S比=60:1(最大)
- 2点レーザーマーカー機能
- バックライト機能
- 放射率の設定が可能
- 上限値/ 下限値のアラーム設定が可能
- 「最高」「最低」「平均」「差分」の温度表示が可能(連続測定時)
- 別売のKタイプ熱電対温度センサーを接続して測定可能
- 内部メモリに24個までの測定データを記録可能
- Micro SDHCカード(1GB)に約3,140万のCSVデータを保存可能
2 仕様
エーアンドデイ社の放射温度計(携帯グリップ型)には、AD-5614・5616・5618・5619・5635など幾つかのモデルがある。
今回その中から選んだのが AD-5634。
AD-5634 | |
測定温度範囲 | -35.0~1500℃ |
分解能 | 0.1℃(-35.0~999.9℃)/1℃(1000℃以上) |
測定確度 | -35.0~-0.1℃ ⇒ ±(2℃+0.05×表示値)
0.0~1500℃ ⇒ ±2%表示値 または ±2℃ のうち大きい方 |
応答時間 | 約1秒(90%) 連続測定は約0.5秒間隔で更新 |
測定波長 | 8μm~14μm |
距離対測定径 | 60:1 (最小測定径2.5cm/1.5mまで) |
照準 | 2点レーザーマーカ(クラス2 1mW 赤色) |
表示モード | MAX・MIN・DIF・AVG |
内部メモリ | 24データ保存 |
micro SDHCカード | 4GB~32GB対応 (約251,658,240データ保存@8GB) |
SDカード保存間隔 | 放射温度計:1秒間隔 K熱電対:2秒間隔 |
機能 | 上限下限アラーム、バックライト、オートパワーオフ |
オートパワーオフ | 約1分 |
電源 | 単3乾電池×2 |
連続使用時間 | 約70時間 (レーザーマーカ、バックライトOFF) |
寸法 | W58×H203×D176mm |
重量 | 約426g(電池込み) |
付属品 | キャリングケース、取扱説明書、単3乾電池2本
USB-A↔mini-Bケーブル、CD-ROM、micro-SDHCカード |
その他 | 別売のKタイプ温度センサーにも対応 |
3 測定範囲
AD-5634は、距離:範囲径の比が60:1の機種。
これは3m離れた対象物を径5cmの範囲で測定できる精度。
6m離れた場合なら径10cmの範囲になる。
D:S=100:1以上の高精度機よりは劣るが、ほとんどが12:1の廉価モデルに比べれば中級クラスになる。
AD-5634 概観
1 開封
スリーブ状のダンボール包装。
製品はハードケース収納状態になっている。
ケースを開けた様子。
AD-5634本体と付属品
2 付属品
取扱説明書、USBケーブル(PC接続用)、CD-ROM、microSDカード、単3乾電池。
1.CD-ROM
AD-5634本内蔵時計を調整するためのプログラムが入っているCD-ROM。
時間調整は、PCとUSBケーブル(A↔mini-B)を介して行う。
今どきCR-ROMが付属するのも珍しいが、A&Dサイトからダウンロードもできる。
2.取扱説明書
付属の取扱説明書は、全ページ日本語の小冊子。
(抜粋)
詳しくは・・・エー‣アンド・デイ AD-5634 取扱説明書(PDF)
3 外観
1.サーモメータ本体
全体がダークブルー、各部にブラック×イエローの配色。
右側面。
液晶表示部と操作ボタン。
液晶部分の大きさはヨコ32×タテ44mm。
赤外線センサ部分。
中央奥が対物レンズ、その上下にレーザーマーカ照射口。
受光部の筒内は、内壁が凸凹形状になっている。
左側面にある黄色の”コネクタカバー”内には、はmicroSDカードやUSB(mini-B)などの各ポードが並んでいる。
右側面の¦形状のポートは”Kタイプ熱電対温度センサ”(別売)の端子。
グリップエンドには三脚などに対応した1/4インチねじ穴がある。
ちょっとネジ穴が浅いのが難点。
2.キャリングケース
全体が真っ黒のプラスチック製ハードケース中央にはモデル銘板。
持ち手側には、スライド式のロック。
ケースを開けた様子。
上部は波型の軟質ポリウレタンフォーム(スポンジ)。
下部は硬質ポリウレタンフォームの型くり抜き。
4 サイズと重さ
1.サーモメータ本体
大きさは約203mm×175mm。
胴部分の幅は約58mm。
グリップ部分の幅は約44mm。
受光レンズ部分(中央の大きな穴)の内径は約Φ25mm。
レーザー照射口(上下にある小さな穴)の距離は約45mm。
重さは電池込みで429g。
2.キャリングケース
横352mm×縦296mm×厚101mm(約)。
重さは949g。
AD-5634 使い方
1 電池
本体のグリップ部分に乾電池を入れる。
単3乾電池2本を使用。
製品にはTOSHIBA製の単3乾電池が付属しているが、ここはPanasonicを用意。
グリップ蓋(黒色)を下にスライドさせるようにして開く。
電池を入れると、自動的に電源がオンになって表示が出る。
元通りにグリップ蓋を戻す。
2 操作部と表示部
電源は測定スイッチ=トリガーを一瞬引くことでオンになる。
測定スイッチ(トリガー)をそのまま1秒以上引くと、温度が計測される。
液晶表示のアイコンと数字の意味は以下の通り。
3 放射率の設定
測定する対象物によって”放射率”が異なるため、測定前にサーモメータ側で”放射率の設定”をする必要がある。
今回はテスト対象として、付属のハードケース(プラスチック)を測定してみる。
『放射率表』によれば、プラスチックの放射率は「0.8~0.95」となっている。
これに従って本体の照射率設定を変更する。
初期設定では、放射率は[E 0.95]に設定されている。
※画面下段の表示
これを変更するには、まず”放射率変更モード”にする。
中央の黄色い[MODEボタン(六角形)]を1回押すと、画面下段のモード表示が[↓E↑]に変わる。
この状態で、
左の[▼ボタン(小さい六角形)]を押すと数値がマイナス側に変わる。
右の[▲ボタン(小さい六角形)]を押せば数値はプラス側に変わる。
0.01ステップで変更できる。
試しに、▼10回押して[0.95]から[0.85]に変更してみた。
4 温度測定
1.随時測定
放射率を設定したら、対象物に向けてスイッチ(トリガー)を引くだけ。
トリガーを引くと、およそ0.5秒ほどの応答速度で温度が表示される。
トリガーを離すと、自動的に測定値がHOLD表示されたままになる。
2.連続測定
連続して測定したい場合は”LOCK機能”を使う。
これは測定スイッチ(トリガー)を引きっぱなしにするのと同じ動作。
LOCK機能は右下の[LOCKキー]を押すことでONになる。
※[LOCKボタン]と[▲ボタン]は兼用になっている (小さい黄色の六角形)
LOCK中は、トリガーを引かなくても連続して温度を計り続ける。
写真⇩ すでに測定を始めているので「28.4℃」が表示されている
LOCK中でも、トリガーを引くとレーザーマーカが照射される。
※レーザーマーカをONにしている場合のみ
レーザーマーカのON/OFF方法は次項で。
5 レーザーマーカ
レーザーマーカは、測定対象が数メートル離れている場合に用いる。
赤い2つの点が照射されるので、レンズが向けられている部位を目視確認できる。
設定方法は、測定スイッチを引きながら、
左の黄色[▼ボタン]を1回押す。
画面の左上に△マークが表れ、レーザーマーカ照射がONになる。
約60cm離れて測定してみた様子。
プラスチック製ケースの、どの部分の温度を計っているのかが一目瞭然。
ちなみに距離1.5mまでは、測定範囲径2.5cmくらいになっている。
(赤いレーザーマーカの内側)
レーザーマーカ照射をオフにしたい場合は、再度同じ操作(トリガーを引きながら[左▼ボタン]を1回押) をすると解除できる。
6 バックライト
液晶表示にバックライトを点灯させることができる。
測定スイッチ(トリガー)を引きながら、
右の[▲ボタン(六角形)]を1回押すとバックライトが点灯する。
バックライトは淡い水色系。
バックライトモード中は画面上部に💡アイコンがつく。
バックライトモードを解除したい場合は、再度おなじ操作をする。
7 各種モード
測定中または測定後に”表示モード”を切り替えて各数値を確認できる。
1.モードの種類
モードは10種類。
MAX・MIN・dIF・AVGなどモード表示順は下表の通りに表示される。
2.モード変更
電源オン時の初期画面では[E (放射率=Emissivity)]になっている。
[MODEボタン(中央の黄色六角形)]を1回押すと[↓E↑]の放射率設定モード。
もう1回押すと[MAX(最大温度)]モード表示になる。
写真⇩の例では37.8℃を示している
さらに1回押すと[MIN(最小温度)]モードを表示。
写真⇩の例では27.6℃
さらに1回押すと[dIF(最大と最小の差分)]モードを表示。
写真⇩の例では10.2℃
さらに1回押すと[AVG(平均温度)]モードを表示。
写真⇩の例では31.6℃
3.アラーム設定
上記の[AVG]モードの次に進むと[アラーム設定]モードに移る。
“アラーム”は、上限と下限の温度を決めておくことで、その閾値を超えると音で知らせてくれるという機能。
1)上限アラーム
中央のMODEボタン(黄色の六角形)を押して、画面下のモード表示を[HAL(High-Alarm)]にすると、上限アラームの設定ができる。
設定数値は、左右にある▼▲ボタンで変更する。
写真⇩の例では「1600℃」の設定
2)下限アラーム
画面下のモード表示を[LAL(Low-Alarm)]にすると、下限アラームの設定ができる。
写真⇩の例では「マイナス35℃」の設定
4.熱電対センサ
その次にある[PRB]モードでは、オプションのKタイプ熱電対センサを使って、表面や深部の温度測定をすることができる。
写真⇩ 熱電対センサが未装着の場合は[no P]と表示される
別売の熱電対センサには、棒(シーズ)タイプや面タイプなど用途別に各種ある。
今回用意したのは、 表面温度用の”接触面タイプ”熱電対センサ AD-1217。
1)AD-1217 概観
内容は熱電対プローブ本体と説明書のみ。
センサ先端からグリップエンドまでの長さは約145mm。
センサ先端には保護キャップ付き。
センサ部分。
AD-5634付属のキャリングケース凹みに、何とか無理やり入れられるサイズ。
(ケーブルははみ出す)
2)AD-1217 準備
¦形の接続プラグをサーモメータ側部の入力端子に挿入して使用する。
プラグが直角に突き出た格好になるので、何かにぶつけると壊れてしまいそうな不安になるデザイン…。
サーモメータAD-5634の電源を入れたら[MODE変更ボタン(六角形)]を数回押して[PRB]モードにする。
[PRB]にするとすぐ熱電対センサが測定を始め、数値が画面の下段に表示される。
写真⇩ 先端センサ周り〇の温度=26.6℃が表示されている
3)AD-1217 測定
テスト1・・・ 非接触と接触の同時測定
カッティングマットの放射温度を計ってみる。 ※非接触測定
測定トリガーを引いて測定すると表面の温度は「26.6℃」。
ここで液晶画面を見てみると、下段にもう1つ[PRB 26.7」という表示がある。
これは熱電対センサ周りの温度、この場合では気温を示している。 ※接触測定
これはこの機種の特徴の1つ、2系統の測定のW表示。
トリガーを引いて計る”非接触測定”と熱電対センサで計る”接触測定”を、それぞれ独立して測定し、表示できる、
テスト2・・・非接触と接触の温度差
PC内のメモリ(SDRAM)の表面温度を、放射熱と熱電対の2通りで計ってみる。
まずは放射熱の”非接触”から。
プラスチック部分なので放射率を「0.95」に設定して測定。
結果は「41.7℃」。
同じ部位を熱電対センサで”接触測定”。
結果は[PRB 41.6℃]となった。
今回の場合、非接触と接触の差は「0.1℃」ということになる。
参考までに、監視ソフト[CORSAIR iCUE]上の数値は「42.35℃」だった。
どれが正解とは判断し難いが、全て誤差1℃以内には収まっている。
5.メモリ機能
AD-5634本体内に24のデータ(測定温度と放射率)を一時保存することができる。
1)保存
手順① 測定スイッチ(トリガー)を引いて温度を計測。
※写真⇩ 27.6℃
手順② [MODEボタン]を9回押してモード表示を「M 00」にする。
手順③ それからもう一度トリガーを引くことで「M 01」に保存される
手順④ 次の測定をする時は[MODEボタン]を押してモードを「E」に戻す必要がある。
手順⑤ 次の保存をする場合は、同じ操作をして新しいデータを保存する。
(トリガーで計測→[MODEボタン]で保存モード「M 00」→トリガーで保存)
※写真⇩ 新しい測定データ 28.6℃「M 01」
2)呼び出し
手順⑥ 前データを呼び出す場合は「M」モードにして▼▲ボタンで選ぶ
写真⇩ 「M 02」を呼び出すと、前回保存した「27.6℃」が表示される
24個のデータを保存すると「M 01」から「M 24」まで各々数値が出る。
データが保存されていない場合は「—-」表示になる。
3)消去
手順⑦ 保存データを消去する場合は▼▲ボタンを左右同時に押す
写真⇩ データが消去されると「M」のナンバーが「00(ゼロ)」になる
参考資料
【参考】エー‣アンド・デイ 放射温度計について 測定原理解説(PDF)
次回は『“AD-5634 デジタル温度計”” 使い方#2』で 内蔵時計の設定とmicroSDカードへ保存 を試す。