断線ケーブル『KSC75 耳掛けヘッドホン』リペア│その手順
「頭(髪)にバンドを乗せるのがイヤ」「耳に異物を入れるのがイヤ」という向きにも好まれる耳掛け式のヘッドホン。
KOSSポータプロと同じオープンエア・タイプのヘッドホン KSC75。
ライトな重点音と軽い装着感がお気に入り。
レトロ感が漂うのもそのはず、1984年発売のロングセラーである。
「お手頃価格なのにそこそこ音が良い」と評判のヘッドホンだけど弱点もある。
ケーブルが細く断線しやすいのだ。
それはほとんどの場合、ハウジングからケーブルが出ている際のあたり。
鳴らなくなった右ドライバも、おそらくそこの断線じゃないかと推測。
そこでさっそく修理してみることにした。
KSC75 ケーブル修理(R ch)
ハウジングユニットの分解
1.イヤーハンガーを外す
まずは耳掛け式の特有のパーツ、イヤーハンガーをハウジングから外す。
ジョイントはスナップ式で連結しているだけなので、引っ張れば簡単に抜ける。
2.スポンジパッドを外す
ドライバに装着されたスポンジ製のイヤーパッドを剥がす。
ドライバ外周に棘々の▲突起が並んでいるので、スポンジを破らないように注意。
3.基盤カバーを外す
ここからヘッドホンケーブル根元部分の作業に移る。
ケーブルの根元はハウジングの内部へとつながっている。
ケーブルの先はドライバの基盤に接続されている。
そこにアクセスしなければならないので、かぶさっているカバーを外していく。
KSC75の基盤カバーにネジ止や接着剤は使われていない。
ハウジングとカバーとの間のわずかな隙間を見つけて、そこに先細のマイナス(−)ドライバーを差し込み、カバーを持ち上げて外す。
右側の隙間を広げたら次は左側、中心を広げたら次は端部を、
というように偏らないように少しずつ隙間を広げてカバーを浮かせていく。
最後は指で引っ張り上げる。
ヘッドホンケーブルの取り外し
1.修理箇所の確認
まず各ワイヤーの配線について。
赤色ワイヤーがプラス(+)、銅色ワイヤーがマイナス(−)になっている。
基板の端子は、右側がプラス、左側がマイナスである。
ハンダ付け部分を観察すると、赤色ワイヤー(+)が基板から切れてしまっている。
また被覆の破れも確認できる。
2.前処置
1)基板端子の掃除
まず、赤色ワイヤーが繋がっていた基板端子の処置。
ここには切れたワイヤーのゴミ(撚り線)が残っているので、コテでハンダを溶かしながら、残ったワイヤーのゴミをピンセット等で取り除く。
2)断線ワイヤーの処置
次に、赤色ワイヤー側の先端処理。
切れたままではハンダ付けできないので、赤いビニル被覆を剥く。
コテ先を当てて被覆を擦ってやると、熱で簡単に溶かせて撚り線を出せる。
写真⇩ 濡らしたキムワイプの上で作業
リッツ線自体は銅線だが、一緒に繊維が巻かれている。
この繊維はハンダ付け出来ないので予め除去し、銅線のみを撚っておく。
写真⇩ リッツ線を銅線と被覆繊維に分けた例
3.被覆の補強
黒ケーブルの被覆破れ部分の処置。
観察すると中にある2本のワイヤーには傷が無い様子。
なので、その上から熱収縮チューブを被せて補強することにした。
熱収縮チューブを被せるために、断線していない銅色ワイヤー(−)も、いったん基板端子から外しておかなければならない。
黒ケーブル被覆にある傷は、ちょうどハウンジングから出ている部分に位置する。
傷は勿論、その前後も補強する目的で長めの熱収縮チューブをかぶせた。
ヘッドホンケーブルの取り付け
1.ワイヤーのハンダ付け
赤色ワイヤー(+)と銅色ワイヤー(−)を基板に戻す。
各ワイヤーの先端(撚り線)にはフラックス塗布後、予備ハンダを盛っておく。
細かい作業なので、ピンセットでワイヤーを保持しながらハンダ付け。
プラス(+)は右の端子、マイナス(−)は左の端子。
赤色ワイヤー、銅色ワイヤーともにハンダ付けが完了。
2.ケーブルの固定
ケーブルホルダーの周りを沿わせてから、外に出す様に取り廻す。
ケーブルは、熱収縮チューブを被せているため元の径より若干太くなったせいで、ホルダー周りへの押込みが窮屈になっている。
ピンセットやドライバー等を駆使しながらの作業になりちょっと大変だった。
3.基盤カバーの取り付け
基板カバーを元の様に被せる。
ケーブル溝に先にはめ込んでから取り付ければ、ケーブルを傷付けにくい。
元通り、ハウジングにカバーが収まった。
ハウジングユニットの復元
1.スポンジパッドの取り付け
外した要領の逆手順で、イヤーパッドを装着する。
2.イヤーハンガーの取り付け
中央にあるジョイントの向きに気を付けながら、ハンガーを取り付ける。
これで、右側ドライバの修理が完成。
断線修理としては以上で完了だが、故障は右でも左でも同条件で起きると想われるので、未だ異常はない左ドライバのケーブルも前もって補強しておくことにする。
KSC75 ケーブル補強(L ch)
ハウジングユニットの分解
1.イヤーハンガーを外す
手順としては上記の右ドライバ(R-ch)と同様になる。
2.スポンジパッドを外す
3.基盤カバーを外す
ヘッドホンケーブルの取り外し
1.修理箇所の有無
左側は緑色ワイヤーがプラス(+)、銅色ワイヤーがマイナス(−)になっている。
どこにも傷や断線はなく異常無しだった。
2.被覆の補強
修理すべき個所は無いが、断線するかも知れない部位を予め補強しておく。
右ドライバ同様に、熱収縮チューブをかぶせて補強。
ヘッドホンケーブルの取り付け
1.ワイヤーのハンダ付け
補強が済んだケーブルを元に戻す。
各色ワイヤーの先端にはフラックスを塗り、予備ハンダを盛っておく。
プラス、マイナスとも元の位置にハンダ付け。
2.ケーブルの固定
ケーブルをケーブルホルダー周りに這わせる。
この窮屈な隙間に押し込むことで、少々ケーブルが引っ張られても、弱点であるハンダ付け部分に負荷がかからないようになっている。
3.基盤カバーの取り付け
元の様に基板カバーを被せる。
ハウジングユニットの復元
1.スポンジパッドの取り付け
ハウジングにイヤーパッドを装着する。
2.イヤーハンガーの取り付け
最後に耳掛けハンガーを取り付ける。
これで、左右とも元通り復元できた。
修理前と違っているのはハウジングから出ているケーブルが補強されていること。
たぶん一番断線の多い場所なので、こうしておくと故障率を下げられるはず。
まとめ
KSC75は装着感が軽いこともあって、うっかり動いてケーブルを引っかけてしまうケースが多々ある。
そんな時に負荷がかかるのが、今回も傷付いていたケーブル端子の周り。
たぶんメーカーもウィークポイントなのは承知のはずで、改良されてもいいと思うのだが、発売から30数年経ってもそのまま仕様である。
前回の『PortaPro DIY リケーブル』同様、ドライバ基板へのアクセスが割と簡単なので、修理メンテナンスのしやすい機種。
実売2000円台と安価なモデルなので、壊れたらすぐ買い替えるモノなのかも知れないが、今回のような修理で直るなら費用も数十円程度。
自分でDIY修理したほうがお得である。